静岡県の魅力 ~経済・産業に視点をおいて~

静岡県の産業

1.はじめに

静岡県経済は、国際化や情報化の時代の流れに適合し、わが国経済をけん引する形で推移しています。一方、日本一の富士山があり、気候も温暖で地理的条件も良く、おだやかな人々が多いというイメージも定着しています。

この静岡県の大学をはじめとする高等教育機関にて学び、研究をしている外国人留学生は年々増加し、今では1,100名を超えています。そこで、外国人留学生が静岡県をより知り、有意義に生活し就職活動に活用することを目的に静岡県の魅力について解説します。

中山 勝 1958年 静岡県生まれ。慶應義塾大学大学院修了(MBA)。静岡県長泉町在住。(一財)企業経営研究所理事長。静岡県、県内市町の委員、日本大学国際関係学部非常勤講師などを務める。県内外の特徴ある企業へのインタビューを行い、地域産業の在り方や中堅・中小企業の戦略について研究をしてきました。

2.静岡県の経済・産業の概要

(1)住んでよしの“しずおか”

一般的に静岡県は、経済的に豊かで暮らしやすい地域であると言われます。留学生の皆さんもそう感じているかも知れませんし、静岡県に住んでいる人々もそう思っているかも知れません。
かつてNHK放送文化研究所が行った調査では、「もし、住む場所を自由に変えることができるとしたら、どの都道府県に住みたいですか(居住県以外)」という質問で静岡県は沖縄、京都、北海道に次いで4番目となりました。

現在、数多くの調査機関が地域の豊かさや暮らしやすさの指標を発表し、豊かさランキング、魅力度ランキングというような調査においても静岡県は上位にランキングされています。
なぜ、これらの調査において静岡県は上位にランキングされるのでしょうか。
気候が温暖であるという「自然条件」、首都圏と関西圏の中央に位置し、東海道というわが国の第一国土軸に立地しているという「地理的条件」が良く、その結果として多くの産業が立地し、多くの人々が住み、豊かな生活をしているということを捉えているからだと思います。

豊かな生活を検証する指標として一人当たり県民所得が利用されます。最新(2016年度)のデータ(表1)をみると、東京、愛知、栃木について第4位となっています。さらに物価水準をみると、静岡県は下位にランクされており、収入、支出を総合的にみて豊かな生活を送ることができる地域と言えます。

静岡県の産業

(2)静岡県経済の位置づけ

ここでは、豊かな経済圏である根拠を主要な経済指標からみてみます。
静岡県の人口は約370万人と47都道府県の中で10番目となっています。また、首都圏や大阪、兵庫、愛知などの府県を除くと圧倒的な大きさになり、北陸3県(富山、石川、福井)合計した人口を上回っています。また、静岡県内で働く労働力人口も194万人と多く、県内総生産(名目)も全国10位となっています。

今、述べた指標を含め民営事業所数、小売業年間商品販売額、新設住宅着工戸数など主要な経済指標(表2)をみると、多くの指標が全国の中でほぼ10位となり、同時にわが国の約3%を占めていることが分かります。

静岡県の産業 ただし、その中でこれらの指標とは異なる特徴的な指標があります。

その1つは、製造品出荷額等で319兆円を超え、全国第4位(5.3%)と極めて高いランキングとなっています。
2つめは、卸売業年間商品販売額で製造品出荷額等とは逆で、全国比で1.7%と3%経済圏と大きく乖離しています。

つまり静岡県経済は全国のトップ10に入る県であり、中でも全国有数のものづくり県であると言えます。

(3)第二次産業(製造業)の状況

第二次産業(製造業)の状況を第一次産業(農林水産業)、第三次産業(卸・小売・サービス業)の状況を含め全国との対比でみると、県内総生産(名目)、従業者数ともに第二次産業の割合が全国平均を大きく上回り、どの産業にどれだけ特化しているかをみる特化係数は県内総生産で1.60、従業者数で1.33となっています(表3)。

静岡県の産業 この製造業の状況を事業所数、従業者数、出荷額の3項目でみると、事業所数は9,138事業所(全国5位)、従業者数405千人(同3位)、出荷額等159,669億円(同4位)となり、一事業所当たり出荷額等は183,506万円で前回調査よりも約6%伸びています。

では、静岡県のものづくりをどのような産業が支えているのでしょうか(表4)。

静岡県の産業 業種では食料品が最も多く、生産用機械、輸送用機械、金属製品、プラスチック製品が続き、これらの業種で53%となっています。また、従業者数では、輸送用機械が最も多く、次いで食料品、電気機械、生産用機械、プラスチック製品が続き、これらの業種で57.5%となっています。
特に輸送機械は第2位の食料品のほぼ2倍の割合となっています。さらに出荷額等でみると、従業者数同様に輸送機械が最も多く、次いで電気機械、化学工業、食料品、飲料・飼料の順となっています。

なお、表4のように上位8業種をみると、輸送機械のような加工組立型産業に特化しているものの、金属製品のような基礎型産業や食料品のような生活関連産業も連ねていることも静岡県の産業の特徴の1つということができます。

(4)産業集積の状況について

静岡県は西部地域、中部地域、東部地域の3地域(地域の定義は次章)に区分されます。この3つの地域によって産業の集積は異なってきます。

西部地域には、輸送機械、楽器、繊維、化学を中心とした製造業の他に温室メロン、ミカン、花木などの多彩の農産物や林業が地域産業となっています。また最近では、光技術を活用するフォトンバレークラスターや航空機産業への進出などが出てきています。

中部地域は、食料品、電気機械、化学に加え缶詰、家具、プラモデルなどが地域産業として捉えることができます。中でも生活関連の産業の立地が特徴といえます。また全国屈指の茶産業や焼津、清水を中心とした水産業も地域を支える産業の1つです。
さらに新しいクラスター産業の育成としてフーズサイエンスヒルズ、MaOIプロジェクトなどが動きはじめました。

東部地域は、輸送機械、電気機械、精密機械に加え、富士や富士宮を中心としたパルプ・紙をあげることができます。また、第三次産業における観光・サービス業も地域を大きく支えています。
さらに、医療健康産業形成を推進するファルマバレープロジェクトをはじめ、農業の生産性向上と新たな価値創造を支援するAOIプロジェクトやセルロースナノファイバー(CNF)による新たな産業育成プロジェクトなどが進められています。

(5)産業を支える企業(事業数)の特徴

静岡県の産業を支える事業所の特徴を産業の視点からみていきます。第1は、数多くの海外進出企業があるということです。静岡県が行った調査では、395社(1,230事業所)が海外に進出しています。
その多くがアジア地域への進出です。国別では中国が最も多く、次いでタイ、インドネシア、ベトナム、インドの順となっています。
海外展開の目的をみると、「現地市場の開拓」が最も多く、次いで 「海外展開した取引先・親企業からの受注確保」となっています。 また地域別にみると、アジアでは「現地市場の開拓」、「海外展開した取引先・ 親企業からの受注確保」、「低コスト労働力の利用」が主たる目的となっています。

第2は、企業規模の大小に係わらず活躍しています。上場企業数は50社あり、この数もわが国の中で10番目となっています。輸送機械関連が13社を占め、次いで電気機械関連(8社)、小売関連(4社)、金融(3社)の順となっています。一方、中堅・中小企業の中でも独自技術やノウハウによって業界トップとなっている企業が数多く存在しているのも特徴としてあげることができます。

以上が、静岡県の経済・産業の概要ですが、次章では静岡県の産業について地域別に特徴を解説していきます。